デジタルファッションとは何かを、様々なクリエイターや企業と探求するリレーインタビュー企画。第一弾は、幅広いクリエイティビティで日本のデジタルファッションを牽引するブランドDéracinéさん。前編では、なぜデジタルファッションを始めたのか、作品にかける想いを伺いました。
![異なるルーツでかたちづくるファッションーデジタルファッションブランド・Déracinéインタビュー[前編]](https://images.microcms-assets.io/assets/db7b20d9ce324de1b388f21c2e60b4c1/9ec0d00dafca434ba30b89f58bae1ef8/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%9B%E3%82%99%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%99%201350.png?w=674&fm=webp)
プロフィール 伊藤良寛/塚越智恵
両者ともロンドン芸術大学Chelsea College of Art & Design ファインアート学科卒業。2021年デジタル上での新しいファッション体験を提案するブランドDéracinéを設立。
デジタルファッションを始めたきっかけ
Q: デジタルファッションを始めたきっかけはなんですか?
伊藤さん:
コロナ渦で、デジタルで完結するクリエーションっていうのがトレンドになったと思いますが、まさに僕らはその時に始めたっていう感じで、元々はCGもファッションも専門外でした。僕らは美術大学を出ているんですが、専門分野が現代アートなので、全然ファッションとは関係のない領域ですが物を作るっていう意味では繋がりがあるのかなとは思っています。
デジタルファッションは、デジタルで全部完結してしかも大きなスタジオがなくてもやれますし。やっぱり、物理的な作品ってスタジオが必要になったり、スペースの広さによって作品が変わったりすると思います。そういう意味では全部PC内で完結してっていうのは、すごくクリエーションとしてはやりやすいというか。そういう現実的なこともやっぱり考えたりしましたね。
Q.もともと現物を作ったりされていたのですか?
伊藤さん:
そうですね。ただそもそも現代アートって続けるのがすごく難しい。そういう意味であまり途中からアートっていうものにこだわりがなくなってきたというか、それでもやっぱりなにか作っていたいよねっていうのはあって。とりあえず最初は、Blenderのチュートリアルをやってみようみたいな感じでした。
Q.最初はファッションではなく別のものを制作されていたのですか?アート寄りと言いますか。
伊藤さん:
何も定めていなかったのですよね、とりあえずCGやってみようみたいな感じで。Blender GuruっていうYouTubeチャンネルのすごい有名なドーナツ作るやつをちょっとやったりとか、 最初はそんなものでしたね。
―ドーナツからファッションですか!
塚越さん:
その時期NFTが話題になっていて、何か作品を出したいなっていうのがスタートでした。最初はファッションだけじゃなく、空間とか映像作品とかを作ってみようっていうので始めたのですけど、NFTの作品みたいに作品が1つで完結するよりは、誰かに使っていただけたりとか、広がるものの方が作っていて楽しいなっていうのがあって。そういう意味でアートワーク的な作品というよりは、デザイン寄りの方向性にいったのかなとは思います。
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Déraciné デラシネ
インターネットや仮想空間において、キャラクターを選択したり変更できるように、人々が自らの意思や選択でルーツを作り上げることができる可能性に注目し、フランス語で「根なし草」を意味する「Déraciné」をブランド名に採用。様々な国の文化や過去のスタイル、伝統などを組み合わせ、そこから生まれる反発や予期せぬ融合について3DCGやAIを使った実験的な制作を続けている。
2021年ブランド設立
2023年 Rakuten Fashion Week 2024 SS キーヴィジュアルメイン衣装を担当
2023年 Amsterdam Fashion Week 2024 SS参加
2024年 NFT Paris 出展
2024年 デジタルファッションSNS「flah」出店
https://deracine.myportfolio.com/
Q.ファッションがお好きだったんですか?
伊藤さん:
昔から好きですし興味のある分野でした。また、デジタルファッションを始めてデザインする側になったことで視点がだいぶ変わりました。
デジタルの場合は、服の構造や素材はもちろん、カメラワークやライティングなど服の見せ方もすごく気になる点です。
塚越さん:
自分が着る服っていうより情報として好きみたいな。見たりとか調べたり、良いデザイナーとかを調べるのがすごい好き。
―やっぱりバックボーンを知ってからの作品を見るとこれが反映されてるなとか。アートと近しい感じがしますよね。
伊藤さん:
全然アーティストとして何かなしたわけではないので、展示をやったこともあるのですけど、難しいなっていう感じだったんで。そういう意味ではひたすらリサーチをしていたか、興味のあることを調べてた感じ。
デジタルファッションの魅力
Q.物理的なファッションとデジタルファッションとで表現できる幅など結構違うと思うのですが、デジタルならではの魅力やいいところはございますか?
伊藤さん:
服の造形っていう意味では、フィジカルなファッションって歴史もめちゃくちゃ膨大で、実物を着るっていう特別感にはなかなか叶わない。しかも服の造形っていう意味ではリアルのファッションでできないことは、ほぼないんじゃないかなと思う。
やらないってことはあると思うんです、予算とか色々な都合で、リアルに作らないってことはあったとしても、やろうと思えば何でもできるんじゃないかなと思ってます。なのでそういう意味では服の構造や造形とかでリアルとデジタルを比べるのも違うなっていう感覚がすごいあって。ただ、着るっていう感覚や体験は違うよな、と思っていて、そこには、可能性がすごいあると思っています。僕らはリアルの服を作ったことはないんですが。
―ええ、一切ですか?
一切作ったことないです。パターンとかも全然知らなくて、ちょっと本を見て学ぶぐらいの本当にど素人だと思います。でも、リアルにその服を作ろうと思ったら、技術的にも何年も修行してやっとできるようなものだと思うんです。そういう意味で、デジタルファッションのプロセスは何回も失敗できたりとか、素材の無駄や廃棄を考えずに何回も実験できるところが大きいんです。そういう実験の回数が最終的に出来上がるデザインにすごく影響与えると思うので。実験を重ねられるところがデジタルの面白さかなって。
作品に込める想い
Q.これまでに発表された作品の中で特に思い入れのある作品についてご紹介いただけますでしょうか、またその作品に込めた想いや世界観、テーマについて教えていただけますでしょうか?
伊藤さん:
先に僕らのブランドのコンセプトをお話したいなと。
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そもそも僕たちが考えてたことは、人って良くも悪くも生まれ持ったルーツとか、国籍とか、性別、年齢なんかとすごく紐づいているなということです。だけど、デジタルファッション、特にアバターが着る時には、一旦そういった自分の国籍とか、生まれとか性別とか、そういうルーツから解き放たれる可能性があるんじゃないかなと思っているんです。なのでそんなどこにも属さない、自分自身のルーツを作り上げることができるんじゃないかなという希望のような意味で、デラシネ、フランス語で「根なし草」がブランド名になっています。
私たちは毎回コレクションごとにバラバラのテーマを立てていて、過去の文化とか背景をチグハグに掛け合わせた、新しいアイデンティティみたいなものを作って、デザインに落とし込んでいます。大体2つか3つのテーマを組み合わせるっていうことをやっていて、そのテーマを決める際にはある程度の指標というか一定の括りを設けています。それは、人のアイデンティティを形成する要素っていうのを僕たちなりに考えてみて、その要素をグループ分けしているんです。3つのグループに分けて、それぞれのカテゴリーから1つずつテーマを選び、その3つ、あるいは2つのテーマを混ぜるという形で進めています。
カテゴリー1は、国とか伝統とか文化です。自分が生まれた国の文化とか、国そのもの、地域性とかが、すごく自分のアイデンティティに影響を与えると思っています。例えば、これまで僕たち今までやってきたものとしては、16世紀のイギリスファッションとか、 ゴシックとか古代エジプト文明といった感じで、エリアも場所も時代もバラバラなテーマをカテゴリー1 から出しています。
カテゴリー2は、もう少し身近なコミュニティや仕事、職業、趣味などから出しています。今までのテーマだとバイカーバイク乗りのファッションとか、アウトドアファッションとか、植物学者とか本当にバラバラなテーマを取り入れてきました。
カテゴリー3は、時間とか場所、空間です。僕たちにとっては遊びや柔軟性のです。作品のアウトプットに応じてですが、画像や映像にする場合は、このカテゴリー3が背景になったりすることが多いです。
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![異なるルーツでかたちづくるファッションーデジタルファッションブランド・Déracinéインタビュー[前編]](https://images.microcms-assets.io/assets/db7b20d9ce324de1b388f21c2e60b4c1/34343182bcf941679c7e9c06ec262a6f/Goth_Camp_2.jpg?w=674&fm=webp)
作品を例にお話していくと、カテゴリー1からはゴシック、カテゴリー2からはキャンプ好きのアウトドアファッション好きファッションをテーマにしました。カテゴリー3は、ブラジルの建築家オスカー・ニーマイヤーの建築で、作品の背景空間として取り入れています。こんな感じで、3つの時代も背景も国もバラバラなテーマが組み合わさって1つの作品になっています。
オスカー・ニーマイヤー(1907-2012)
ブラジルのモダニズム建築の巨匠。ニーマイヤーは1950年代、祖国の一大プロジェクト、首都ブラジリアの主要な建物設計にたずさわり、豊かな都市を誕生させました。有機的な曲線とモダニズムの幾何学が織りなすデザインは今なお多くの建築家に影響を与えています。
―やはりバックボーンを聞くとすごく面白いですね。
伊藤さん:
こういうのってどこまで話すのがいいのかなとはすごく思います。
![異なるルーツでかたちづくるファッションーデジタルファッションブランド・Déracinéインタビュー[前編]](https://images.microcms-assets.io/assets/db7b20d9ce324de1b388f21c2e60b4c1/f64cc4d117d845c288eadb50e58c6fff/Slide_4.jpeg?w=674&fm=webp)
―こちらも同じコレクションの時のですかね
伊藤さん:
そうですね。これはちょっとゴス全開みたいな方(左の作品)で、こっちがアウトドア寄り(右の作品)みたいな感じです。コレクション全体でテーマのバランスを取るようにしています。あんまりコンセプトを言う機会ってないですよね。最初の頃はコンセプトをまとめてInstagramのリールとかに載せてたんですよ。でも分からないですね、コンセプトみたいなものを完全に公開しているブランドの方がいいのか、それは内側に閉まっておいた方がいいのかみたいな。なんか話しすぎるとダサいかなとか。色々言いすぎてるかなとか、ちょっと一応ファッションブランドとしての保たなきゃいけないものみたいなのあるのかなとか思ったりして。
―なるほど、確かにファッションブランドさんの展示会とかに行くと、デザイナーさんとかとお話してこれはこういう経緯でこういう服にしたんだとか聞けるのですけどお店だとそういう話一切ないので。
塚越さん:
結構難しいなって思うのは、例えばこれってコンセプトはゴスとキャンプなんですけど、もしこのアイテムをいいなって思ってくれる方が、ゴシックにもキャンプにも興味がなくても全然いいなと思っていて。それよりも、合わさった時の雰囲気とかデザインで興味をもってもらえたら、それだけで十分ですし、嬉しいです。